東京地方裁判所 昭和48年(行ウ)34号 判決 1997年3月27日
原告 小西誠 ほか一名
被告 航空自衛隊中部航空方面隊司令官 ほか一名
代理人 山元裕史 吉岡聖剛 仁田良行 長島正行 ほか四名
主文
原告両名の請求は、いずれもこれを棄却する。
訴訟費用は原告両名の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告航空自衛隊中部航空方面隊司令官が原告小西誠に対してなした昭和四四年一一月一五日付け懲戒免職処分はこれを取り消す。
被告航空自衛隊第二高射群司令が原告小多基実夫に対してなした昭和四七年五月四日付け懲戒免職処分はこれを取り消す。
第二事案の概要
原告両名は、いずれも自衛官として在職していたところ、在職中にいわゆる反戦行動をしたことを理由に自衛隊法上の懲戒免職処分を受けた。
本件は、原告両名が右懲戒免職処分は憲法違反であるなどと主張してこの処分の取消しを求めた事案である。
(争いのない事実)
一 原告小西誠関係
1 原告小西の経歴等
原告小西は、昭和三九年三月二五日、三等空士に任用され、その後二等空士、一等空士、空士長に順次昇任し、昭和四三年三月一九日、三等空曹に昇任し、以後新潟県佐渡郡金井町新保丙二の二七所在航空自衛隊佐渡分とん基地の同隊中部航空方面隊中部航空警戒管制団第四六警戒群の通信電子隊に所属してレーダー整備士として勤務していた。
右第四六警戒群は、航空自衛隊入間基地に司令部を置く中部航空方面隊隷下の中部航空警戒管制団に所属する部隊であって、本部、監視管制隊、通信電子隊及び基地業務隊からなり、その隊員数は約二百数十名であった。同警戒群の業務は、常時レーダー装置によって、我が国に接近する不審な航空機を探知し、領空侵犯に対する自衛隊機による警告等の措置に必要な通信連絡を行うことである。
2 原告小西に対する本件懲戒免職処分
被告航空自衛隊中部航空方面隊司令官は原告小西に対し、昭和四四年一一月一五日付けで懲戒免職処分をなした。
原告小西に対する同年一二月一〇日付け「懲戒処分説明書」<証拠略>に記載された違反事実(本件懲戒免職処分事由)と適条は左記のとおりである。
記
(一) 違反事実
(1) 「特別警備練成訓練実旋に関する第四六警戒群一般命令(四六警群般命第四〇号 四四・九・二九)」に基づく同訓練について、昭和四四年一〇月一八日〇八〇五ころ、第四六警戒群庁舎前合同朝礼場において、同日の訓練参加を拒否した。
(2) 同日〇八一〇ころ、第四六警戒群庁舎内食堂入口ドアー及び同一階廊下の壁に「アンチ安保第三号(四四・一〇・一五)」なるB四版ガリ刷の「チラシ」三枚を貼付し、隊員一般の閲覧に供した。
(二) 適条
自衛隊法四六条一号及び三号
二 原告小多基実夫関係
1 原告小多の経歴等
原告小多は、昭和四五年一一月二四日、二等空士に任用され、昭和四六年六月九日、航空自衛隊芦屋基地第二高射群第五高射隊所属となり、同年一〇月一日、一等空士に昇任した。
なお、原告小多は、現在民間会社に勤務している。
2 原告小多に対する本件懲戒免職処分
被告航空自衛隊第二高射群司令は原告小多に対し、昭和四七年五月四日付けで懲戒免職処分をなした。
原告小多に対する同年六月三日付け「懲戒処分説明書」<証拠略>に記載された違反事実(本件懲戒免職処分事由)と適条は左記のとおりである。
記
(一) 違反事実
(1) 被処分者は、昭和四七年四月二七日一六時ころ、陸上自衛隊第三二普通科連隊所属一等陸士与那嶺均ほか三名の自衛官及び部外者小西誠とともに自衛隊の沖縄配備中止等の要求を行なわんとして防衛庁長官に面会を求め正門の守衛と押し問答のうえ、これが実現不可能とみるや、一方的に正門付近にこれら五名とともに一列横隊に並び、不特定多数の者が往来し、かつ、集合していた場において、陸上自衛隊第四五普通科連隊所属一等陸士福井茂之が前記沖縄配備中止等を訴える内容を有し、全員の記名のある「要求書」を読み上げた後、当該「要求書」と同趣旨内容の「声明」なる文書を守衛に手交して立ち去った。
(2) さらに、被処分者は、昭和四七年四月二八日二〇時ころ、東京都港区所在の「芝公園」で開催された「四・二八沖縄返還協定粉砕中央総決起集会」に前記五名とともに参加し、同集会場に設置された演壇上に制服を着用して立ち、その際、同会場の多数の参集者を対象として、当該五名中の一人である陸上自衛隊富士学校偵察教導隊一等陸士内藤克久は前示「要求書」を、陸上自衛隊第二特科群一等陸士河鰭定男は同「声明」をそれぞれ読み上げ、その後、自衛隊の沖縄配備等政府が決定した政策に反対又はこれを阻止することを訴え、あるいは自衛隊を誹謗する等の内容を有する演説を行った。
(3) また、被処分者は、昭和四七年五月一日から同月三日までの間、所属長の承認を受けることなく、勤務を離脱した。
(二) 適条
自衛隊法四六条一号及び二号
三 審査請求後三か月の経過
原告小西は、昭和四四年一二月一五日、原告小多は、昭和四七年七月一日、本件各懲戒免職処分について、それぞれ防衛庁長官に対し審査請求をしたが、各請求後三か月を経過するも、裁決がなされていない。
(争点)
一 原告小西に対する本件懲戒免職処分の適否
1 懲戒事由該当性の有無
本件特別警備練成訓練参加拒否行為は、自衛隊法五七条の上官の命令に服従する義務に違反し、懲戒事由を定める同法四六条一号(「職務上の義務に違反し、又は職務を怠った場合」)に該当するか否か。
本件チラシ貼付行為は、同法六四条三項の禁止する「怠業的行為」の「せん動」に該当し、懲戒事由を定めている同法四六条三号(「その他この法律又はこの法律に基く命令に違反した場合」)に該当するか否か。仮に、同法四六条三号に該当しないとしても、同条二号の「隊員たるにふさわしくない行為」に該当するか否か。
2 本件特別警備練成訓練参加拒否行為
(一) 本件特別警備練成訓練の違憲性の有無
本件特別警備練成訓練が治安訓練であって、国民主権を最高の原理とする憲法に違反したか否か。
3 本件チラシ貼付行為
(一) 自衛隊法四六条三号該当性の有無
本件チラシ三枚の貼付行為は、自衛隊法六四条三項の「政府の活動能率を低下させる怠業的行為」の「せん動」にあたり、同法四六条三号(「その他この法律又はこの法律に基く命令に違反した場合」)に該当するか否か。
(二) 憲法三一条違反の有無
本件チラシ貼付行為に対してなした本件懲戒免職処分は、手続上憲法三一条に違反したか否か。
本件懲戒免職処分にはその理由が明示されなかったとして憲法三一条に違反するか否か。本件懲戒免職処分の理由となっている「怠業または政府の活動能率を低下させる怠業的行為の遂行をせん動した」との事由は、恣意的な処分として憲法三一条に違反するか否か。被告航空自衛隊中部航空方面隊司令官が平成八年三月二八日付け準備書面において、自衛隊法四六条三号に該当しない場合でも、同条二号の「隊員たるにふさわしくない行為」には該当するとして、新たに同号の適用を主張したことは、憲法三一条に違反するか否か。
(三) 憲法二一条違反の有無
本件懲戒免職処分は原告小西の自衛隊批判をなしたことを理由としてなされたとして憲法二一条に違反するか否か。
二 原告小多に対する本件懲戒免職処分の適否
1 懲戒事由該当性の有無
本件防衛庁長官に対する面会要求等の行為及び本件芝公園における集会参加等の行為は自衛隊法四六条二号の「隊員たるにふさわしくない行為」に該当するか否か。
本件無断勤務離脱行為は、営内居住義務(自衛隊法五五条、自衛隊法施行規則五一条)及び職務遂行の義務(自衛隊法五六条)に違反し、同法四六条一号の「職務上の義務に違反し、又は職務を怠った場合」に該当するか否か。
2 本件防衛庁長官に対する面会要求等の行為及び本件芝公園における集会参加等の行為
(一) 請願権の行使か否か
本件防衛庁長官に対する面会要求等の行為及び本件芝公園における集会参加等の行為は請願権の行使であったか否か。
(二) 憲法一四条違反の有無
本件懲戒免職処分は憲法一四条に違反するか否か。
(三) 憲法二一条違反の有無
本件懲戒免職処分は憲法二一条に違反するか否か。
(四) 憲法一九条違反の有無
本件懲戒免職処分は憲法一九条に違反するか否か。
3 本件無断勤務離脱行為
本件無断勤務離脱行為に正当性が存したか否か。
4 懲戒手続の憲法違反(憲法三一条違反)性
本件懲戒免職処分は憲法三一条に違反するか否か。
5 自衛隊法施行規則八五条二項違反の有無
本件懲戒免職処分が自衛隊法施行規則八五条二項の要件を充たさずになされたか否か。
第三争点に対する判断
一 原告小西に対する本件懲戒免職処分の適否
1 本件懲戒免職処分事由の存否
(一) 本件特別警備練成訓練参加拒否行為
(1) 本件特別警備練成訓練に至る経緯
<1> 社会情勢
証拠<証拠略>によると、次の事実を認めることができる。
昭和四三年ないし同四四年当時の我が国の社会情勢は、いわゆる過激派集団等による反安保闘争が激化の一途をたどり、全国各地で過激かつ大規模な集団暴力事犯が続発するなどした極めて緊迫した状況下にあった。このような状況下にあって、反安保闘争の一環としての反基地闘争も激化し、昭和四三年九月から同四四年一〇月にかけて、航空自衛隊小牧基地、防衛庁本庁、航空自衛隊浜松南基地、陸上自衛隊大久保駐とん地及び同市ヶ谷駐とん地において、それぞれ集団又は少数せん鋭の過激派学生等による不法侵入事件が続発した。
<2> 本件特別警備練成訓練実施命令
証拠(<証拠略>)によると、次の事実を認めることができる。
防衛庁長官は陸上幕僚長、海上幕僚長及び航空幕僚長に対し、昭和四四年一月二三日付けで、右のような情勢に対処するため、「陸上幕僚長、海上幕僚長及び航空幕僚長は、自衛隊の出動又は海上における警備行動が命ぜられていない場合における自衛隊の部隊又は機関の使用する施設及び艦船への外部からの不法侵入に対する措置に関し、別紙「自衛隊の施設等への不法侵入に対する措置」に準拠し、かつ、部隊又は機関の任務、実情、施設及び艦船の状況並びに警察機関との関係を考慮し、所要の標準を定め、もって自衛隊の部隊又は機関の使用する施設及び艦船の警備に遺漏のないようにするものとする。」旨の「自衛隊の施設等への不法侵入に対する措置に関する長官指示」(<証拠略>)を発した。
そして、航空自衛隊においては右長官指示に基づき、同年六月二四日付けで、航空自衛隊所属の部隊等の長及び基地司令等に対し「特別警備実施基準について」と題する航空幕僚長通達(<証拠略>)が発せられた。
なお、右通達に添付された「特別警備実施基準」(<証拠略>)には、特別警備実施基準の趣旨として、「この基準は、基地等に所在する部隊等に対し、防衛出動又は治安出動が命ぜられていない場合において、多数集合の相手方又は少数せん鋭な相手方による基地等への不法な侵(潜)入及びこれに伴う不法行為(そのおそれのあるときを含む。以下「不法行動」という。)に対する基地警備の実施にあたり、基地司令等及び基地司令の属する部隊等の隷属する上級の部隊等の長に必要な準拠を示すものとする。」旨の、また基本方針として「<1>特別警備は、航空自衛隊の任務達成を主眼として実施することを本則とするが、状況によっては自衛隊の行動に支障を及ぼさない限り、業務を一時中止して優先実施する。特別警備は、指揮官の一途の方針に基づき航空自衛隊の威信を保持しつつ実施するものとし、この際つとめて無用の摩擦を避けるものとする。<2>不法行動に対しては、相手方を門又は外さくの線において阻止することに努めるものとする。万一侵(潜)入された場合においてもこれを排除し、基地等の主要機能を確保するものとする。<3>不法行動に対しては、自らなしうる限りの警備を実施するとともに、警察機関に対し、所要の警察官の派遣を要請するものとする。」旨の各記載がある。
航空自衛隊中部航空方面隊中部航空警戒管制団第四六警戒群群司令二等空佐濱峻(以下「濱群司令」という。)は、右航空幕僚長の通達を受け、隷下の各隊長に対し、昭和四四年九月二九日、四六警群般命第四〇号「特別警備練成訓練実施に関する第四六警戒群一般命令」を発し、同年一〇月八日、四六警群般命第四五号「特別警備練成訓練実施に関する第四六警戒群一般命令の一部変更に関する第四六警戒群一般命令」を発し、特別警備練成訓練は、同年一〇月六日から同月末日までの間の予定で実施された。
本件特別警備練成訓練において計画された演練項目は、法的知識、阻止制圧隊形、図上演習、CPX(指揮所演習)、実動演習、相手方使用武器に関する知識及び特別警備計画の七項目であるが、このうち、阻止制圧隊形訓練一項目のみが現実に実施された。この概要は、次のとおりである。
ア 同月六日及び八日
同月六日は八二名、同月八日は七五名が参加し、それぞれ約一時間にわたり、分隊の阻止隊形として、基本隊形、重畳隊形、阻止隊形及び圧出(排除)姿勢の基本姿勢及び基本動作を演練した。
イ 同月一六日及び一八日
同月一六日は四五名、同月一八日は四七名が参加し、それぞれ約一時間にわたり、分隊の阻止隊形として、基本隊形及び重畳隊形を演練した。なお、右アの演練に参加した隊員については、各種隊形の連続移行が迅速、機敏にできたため、更に阻止、圧出動作を滞りなく実施できるよう反復訓練を行い、また、初めて訓練に参加した隊員については、右アの訓練を行った。
ウ 同月二〇日及び二二日
同月二〇日は二五名、同月二二日は四二名が参加し、それぞれ約一時間にわたり、分隊の阻止隊形の斜隊形及び縦隊形を演練した。
(2) 本件特別警備練成訓練参加拒否行為の目的ないし動機
証拠(<証拠略>)によると、次の事実を認めることができる。
原告小西は、真の世界平和と幸福とを達成することは資本主義体制下では不可能であり、それを達成するためには社会主義・共産主義体制が最短距離であると確信するようになり、このためには現下の資本主義体制のもとでなされている安全保障条約を粉砕し、現政権の「犬」、「ロボット」と化している自衛隊を変革し、真の民主的な国民の安全に寄与する軍隊を建設したいと考えていた。そして、原告小西は、かねてから自衛隊の現状と隊員に対する種々の規制に強い不満と批判を抱き、入隊時の同期生等に対し働きかけて「自衛隊の民主化問題」について同調者を募る一方、安保粉砕、原子力潜水艦寄港反対、日韓条約反対、砂川闘争等の集会デモに参加していたところ、昭和四四年五月ころからは、自衛隊内における営舎内居住義務を根拠とする外出等に対する規制や生命保険加入の勧奨等に対し、強い批判と反発とを抱いていた。
また、原告小西は、昭和四四年九月ころ、第四六警戒群において本件特別警備練成訓練が実施されることを知ったが、同訓練は治安出動訓練の第一歩であると信じ、佐藤首相の訪米等をめぐる当時の社会情勢等も背景に、自己の思想を発表して隊員の意識を覚せいさせるためには、この機をおいて他に適当な時機はないと考えるに至った。当時、佐渡分とん基地内には、既に、原告小西と意識を同じくする隊員が数名存し、原告小西は右隊員らとも親しく交際していた。
(3) 本件特別警備練成訓練参加拒否行為
争いのない事実の外に、証拠(<証拠略>)によると、次の事実を認めることができる。
原告小西は、昭和四四年一〇月一八日、第四六警戒群本部庁舎前合同朝礼場において行われた朝礼終了後の午前八時五分ころ、同群通信電子隊長一等空尉西本陸郎(以下「西元隊長」という。)が、同隊に所属し、朝礼場に集合している六〇ないし七〇名の隊員に対し、「これから特別警備訓練を開始する。勤務その他で訓練に支障がある者は列外に出よ。」と命じた。これに応じて、原告小西を含む五ないし六名の隊員が列外に出た。これらの隊員に対し、同隊の先任空曹入部兼親(以下「入部空曹」という。)は、西元隊長の指示により、同訓練に参加できない理由をそれぞれ確認したところ、原告小西以外の隊員はそれぞれ勤務上の都合とか、体調不良等の理由を述べたのに、原告小西は、勤務上の都合とか体調不良等の理由ではなく、単に同訓練に参加することを拒否する旨を述べた。そこで、西元隊長が原告小西の前に来て、「小西三曹、君は勤務に支障がないはずだ。」と述べた。原告小西は「勤務に支障はないが、訓練を拒否します。」と答えた。
列外に出た原告小西以外の者はそれぞれ勤務等に就いたが、原告小西はその場にとどまった。西元隊長は原告小西の近くに立ち、原告小西と西元隊長の二名のみとなった。
そこで、西元隊長は原告小西に対し、「君が上官の命令に従わないのは自衛隊法及びその他の法令に違反することは認めるか。」と問い質したところ、原告小西は、「違反であることは認めます。」と答えた。そこで、西元隊長は原告小西に対し、「わかった。私には処罰権はないのでしかるべく処置をするから。」と告げ、さらに、濱群司令に対し、「通電隊訓練拒否者が一名でました。」と報告した。
(二) 本件チラシ貼付行為
(1) 本件チラシ貼付行為に至る経緯
争いのない事実の外に、証拠(<証拠略>)によると、次の事実を認めることができる。
前記認定したようなことから、原告小西は、昭和四四年九月二〇日午前一時ころ、佐渡分とん基地内レーダー整備室において「アンチ安保第一号」と題するチラシ(<証拠略>)約四〇枚を作成し、同月二三日午前一〇時ごろ、同基地最寄りの新聞販売店に赴き、右チラシを同基地に配達される予定の新聞に折り込むことを依頼し、これを同店に二三ないし二四枚手交したほか、同月二七日午前零時ごろ、右チラシを同基地内第四六警戒群庁舎玄関、同庁舎内の地上安全コーナー及び厚生ニュースコーナーの各掲示板に各一枚ずつ貼付し、また、同日、右チラシ一枚を同僚である三等空曹榎村道夫に手交した。
さらに、原告小西は、同月二八日午後六時ないし七時ころ、同基地内オペレーション通信電子隊事務室において、「アンチ安保第二号」と題するチラシ(<証拠略>)約四〇枚を作成した上、その左端空欄に万年筆で「人民の正当なる権利の主張を侵害するデモ鎮圧訓練、治安訓練を拒否せよ」と記入し、同月二九日正午ごろ、右チラシ及び前記「アンチ安保第一号」を前記庁舎内トイレの壁面二か所に各一枚合計四枚貼付し、次いで、同月三〇日午前一〇時ごろ、前記新聞販売店に赴き、自ら右「アンチ安保第二号」のチラシ二三ないし二四枚を同基地に配達される予定の新聞に各一枚づつ折り込み、さらに同年一〇月五日午前零時ごろ、同年九月二七日に前記「アンチ安保第一号」を貼付したと同じ掲示板三か所に右「アンチ安保策二号」を各一枚貼付した。
また、原告小西は、同年一〇月八日、下宿先の自室において、「安保粉砕」、「治安訓練拒否」、「沖縄解放」、「ブルジョア政府打倒」、「佐藤訪米実力阻止」等と書いたチラシを多数枚作成した上、同月九日午前零時ごろ、同基地付近の電柱に右各チラシ合計約八〇枚を貼付し、さらに同月一〇日、同様のチラシを多数枚作成した上、このうちの約百数十枚を同月一一日午前二時ごろ、前記庁舎内の廊下の壁面、同庁舎外の朝礼台、国旗のポール、体育館等に貼付した。
そして、原告小西は、同月一四日午後六時か七時ころ、同基地オペレーション通信電子隊事務室において、別紙一の「アンチ安保第三号」と題するチラシ(<証拠略>)を約四〇枚を作成した。
(2) 本件チラシ貼付行為の目的ないし動機
本件チラシ貼付行為の目的ないし動機は前述した本件特別警備練成訓練参加拒否行為の目的ないし動機と同様であった(<証拠略>)。
(3) 本件チラシ貼付行為
争いのない事実の外に、証拠(<証拠略>)によると、次の事実を認めることができる。
原告小西は、前記のとおり、本件特別警備練成訓練への参加命令を拒否した後、西元隊長から営内待機を命ぜられたところ、「私の信じるところをやらせてもらいましよう。」と述べて、第四六警戒群本部庁舎に入り、同日午前八時一〇分ころ、同庁舎内の通信電子隊事務室前廊下側壁に、予め作成し、用意していた前記「アンチ安保第三号」一枚をセロハンテープで貼付した。次いで、原告小西は、右廊下突き当たりの食堂入口の扉のガラスに「アンチ安保第三号」一枚を貼付しようとしたところ、原告小西の後を追ってきた右通信電子隊通信小隊長二等空尉小端鉄彰(以下「小端小隊長」という。)から「掲示について許可を受けているのか。許可のない掲示は規律違反で処罰されるぞ。」と質されたが、原告小西は、「規律違反よりも貼ることの方が大事です。」などと答え、右食堂入口の扉のガラスに右チラシ一枚をセロハンテープで貼付した。さらに、原告小西は、小端小隊長から「掲示することは同僚、上司に迷惑をかけることになるのを知っているか。」と問われたことに対し、「みんなに迷惑がかかることよりも貼ることの方が大事です。」と答え、同庁舎内手洗場前の廊下側壁に「アンチ安保第三号」一枚をセロハンテープで貼付し、原告小西の前に立ちふさがった小端小隊長に対し、「私に暴力を使わせようとするのですか。」といいながら、右手洗場の前の隊員浴場寄り廊下側壁にも「アンチ安保第三号」一枚を貼付した。
なお、右手洗場前の廊下側壁に貼付された一枚については、小端小隊長に同道していた入部空曹に直ちに剥がされたため本件懲戒処分の対象とはなっていない。
(4) 本件チラシ貼付行為後の経緯
証拠(<証拠略>)によると、次の事実を認めることができる。
原告小西は、昭和四四年一〇月一八日以後、前記通信電子隊電子小隊勤務を解かれて同通信電子隊本部勤務を命ぜられこれに従事していたが、同月二〇日の朝礼終了後に、本件特別警備練成訓練を実施するに当たり、西元隊長から「特別警備練成訓練は治安訓練ではない。我々が行っているのは特別警備練成訓練である。勤務に支障がある者及び訓練をやりたくない者は右に出よ。」と告げられるや、列外に出て同日の特別警備練成訓練に参加しなかった。
原告小西は、同日午後九時ころ、前記本部庁舎内車庫において、官用バスの座席シートに前記「アンチ安保第三号」を挟み、同車に乗車する隊員に対しこれを閲覧させようとした。
2 自衛隊法上の懲戒規定該当性の有無
(一) 本件特別警備練成訓練参加拒否
(1) 自衛隊法五七条、四六条一号該当性の有無
前記認定事実によると、原告小西は、昭和四四年一〇月一八日午前八時五分ころ、第四六警戒群庁舎前合同朝礼場において、上官の西元隊長の本件特別警備練成訓練参加命令を受けたのであるから、この命令に忠実に従う義務があった。
ところが、原告小西は、勤務に支障はなく、健康上の理由もなかったにもかかわらず、自己の信念から右命令を拒否したというのである。
原告小西は、西元隊長が原告小西に対し「訓練に参加しないことは認めない。訓練に参加せよ。」との具体的な命令を発していないとか、あるいは、自衛隊において適式なる命令とは、命令の目的・内容を事前の教育及び現場における指示等によって命令を受ける隊員に詳しく説明し、納得させたうえで発出させることを要件とするのであるから、本件にあっては、適式なる職務命令は発出されなかった旨主張する。
しかし、西元隊長は隊員に対し、前記のとおり、「これから特別警備訓練を開始する。」と命じているうえに、原告小西に対し「君が上官の命令に従わないのは自衛隊法及びその他の法令に違反することは認めるか。」と尋ね、原告小西が「違反であることは認めます。」と答えると、「わかった。私には処罰権はないのでしかるべく処置をするから。」と応答しているのであるから、西元隊長は原告小西に対し、本件特別警備練成訓練に参加することの職務命令を発出したということができ、職務命令の手続及び形式は、職務命令の効力の要件ではないのであって、職務命令を発出する手続及び形式については特別の制限はなく、また、正式に職務命令である旨明示しなくてもよいと解されるから、原告小西の右主張は採用できない。
そうすると、原告小西の本件特別警備練成訓練参加拒否は、「隊員は、その職務の遂行に当っては、上官の職務上の命令に忠実に従わなければならない。」と定めている自衛隊法五七条に違反し、これの懲戒規定である同法四六条一号に該当することとなる。
(二) 本件チラシ貼付行為
(1) 自衛隊法六四条三項、四六条三号該当性の有無
<1> 自衛隊法六四条二項の趣意
自衛隊法は国の公務運営上の諸利益を保護するために隊員に職務専念義務(同法六〇条)や職務遂行義務(同法五六条)等の一般服務上の義務等を課しているが、このほかに、さらに同法六四条を規定しているのは、国家公務員法等におけるこの種の規定と同様、隊員らが団体的集団的に義務懈怠行為を行うと、個別的な職務専念義務違反・職務命令違反の単なる集積とは異なり、国の業務の運営能率が阻害され、国民全体の共同利益をも害することから、これらの利益を保護するために、別個に禁止規定を置いたものと解される。
そうすると、同条二項にいう「政府の活動能率を低下させる怠業的行為」とは、隊員による団体的集団的な義務懈怠行為であって政府の活動能率を低下させることをいうと解すべきである。そして、右にいう怠業的行為としては、隊員が、当該行為に出る認識を相互に有する通常のもののほか、当該隊員から他の隊員に、他の隊員からさらに他の隊員にというように連鎖的に意思を連絡するものや、当該隊員が中心となって順次他の隊員らと各個に結びつき、他の隊員相互間に認識のないもの、怠業的行為に出ない当該隊員が怠業的行為に出る他の隊員らと各個に結びつき、他の隊員相互の間に認識のないものなども、意図・目的を同じくして団体的集団的に義務懈怠行為が行われる以上、同項の趣旨に照らし、これに含まれるものと解される。
この点に関し、原告小西は、同法六四条二項は公務員の争議行為を禁止した旧労働関係調整法三八条、政令二〇一号に由来するから、同法六四条二項にいう怠業的行為とは、労使関係に関する主張を貫徹する目的のために集団でする行為、あるいは争議行為に準じた行為に限られる旨主張するが、同項の趣旨に照らせば、目的の如何を問う必要はなく、例えば政治スト等の、本来、労使関係に関しないものも、同項の禁止の対象に含まれるものと解されるから、右主張は採用できない。
なお、原告小西は、同法六四条二項にいう怠業的行為とは、「隊員の団結体の意思に基づく」集団的組織的行為をいうとも主張しているようである。
原告小西がいう右「団結体の意思に基づく」との趣意は必ずしも明らかでないが、仮に、その意味するところが、労働組合等の組織的に確立された団体が機関決定に基づく指令によってその構成員に行わせる義務懈怠行為に限るとする趣旨であれば、右見解は妥当ではない。同項の趣旨や、同条三項が「何人も」と規定し特段の制限をしておらず機関決定等を前提としていないことなどに照らせば、隊員の団体的集団的なものであれば、永続的な団体によって行われるものに限らず、例えば争議団のように一時的なものによって行われるものであっても、また、一部の組合員が機関決定等を経ずに当該労働団体全体の意思に反して行う山猫ストのようなものであっても、同項の怠業的行為に含まれるものと解すべきである。
<2> 自衛隊法六四条三項の趣意
ところで、自衛隊法六四条三項の「せん動」とは、国公法九八条二項、一一〇条一項一七号及び地公法三七条一項、六一条四号に各規定されている「あおり」と同様に、自衛隊法六四条二項に定める違法行為を実行させる目的をもって、他人に対し、その行為を実行する決意を生じさせるような、または既に生じている決意を助長させるような勢いのある刺激を与えることをいうものと解される。
この点に関し、原告小西は、表現の自由を保障する憲法二一条に照らし、自衛隊法六四条三項にいう「せん動」とは、被せん動者が呼びかけに応じて当該行為に出る現実的可能性がある場合に限定解釈すべきであると主張する。
もとより憲法二一条の保障する表現の自由は、民主主義社会における重要な基本的人権の一つとして、格別に尊重されなければならないが、表現の自由といえども国民全体の共同の利益を擁護するため必要かつ合理的な制限を受けることは、憲法の許容するところであると解される。そして、自衛隊員に対し、政府の活動能率を低下させるような怠業的行為の遂行をせん動することは、国民全体に奉仕すべき自衛隊員の重大な義務懈怠を慫慂し教唆するのであり、国民全体の共同の利益に反するのであって、憲法の保障する言論の自由の限界を逸脱するから、怠業的行為の起こる危険が全く存しない場合は格別、そうでない以上、自衛隊法六四条三項の「せん動」にあたると解すべきである。
したがって、原告小西の右主張もまた採用できない。
<3> 本件チラシ貼付行為の自衛隊法四六条三号の該当性
原告小西は、前述したとおり、本件特別警備練成訓練はデモ隊鎮圧の訓練であるとの認識に立った上で、デモ隊は人間としての生きる権利、マルクス主義、共産主義を勝ち取るためにデモを行っているのであるから、これを鎮圧すべきでなく、資本主義、ブルジョア政府及び帝国主義社会体制を打倒するために、隊員らは団結して本件訓練を拒否するようにと訴えるとともに、隊員らに対し革命の政治的任務を遂行するための武装集団である全自衛隊革命的共産主義者同盟(赤軍)へ結集するように訴えるアンチ安保第三号を、いずれも隊員が常時通行往来し、掲示物を容易に閲覧することのできる場所である本部庁舎内食堂入口扉、通信電子隊事務室前廊下横壁及び手洗場所前廊下横壁にそれぞれ貼付して、隊員らの閲覧に供したのである。
そうすると、原告小西の本件チラシ貼付行為は、隊員らに対し、団体的集団的な義務懈怠を慫慂し、本件特別警備練成訓練という政府の活動への参加を拒否させる勢いのあるものであるから、自衛隊法六四条三項の禁止する怠業的行為のせん動に該当し、懲戒事由を定めている同法四六条三号に該当する。
3 本件懲戒免職処分の適法性
(一) 本件懲戒免職処分の適法性
原告小西の本件特別警備練成訓練参加拒否行為は、自己の独特の信念に基づいて自衛隊員として当然に従わなければならない上官の命令に反抗してこれに従わなかったのであって、重大な非違行為といわなければならず、また、本件チラシ貼付行為は、自己の独特の信念から自己の所属する自衛隊の存在そのものを全面的に否定する内容を有するチラシを自衛隊内の施設に貼付し、隊員の閲覧に供したのであって、これも重大な非違行為といわなければならない。
以上の諸点を考慮すると、本件懲戒免職処分は、処分権者である被告航空自衛隊中部航空方面隊司令官の裁量権の範囲内によってなされたということができ、懲戒権者としての裁量を逸脱した点は認められない。
原告小西は、本件懲戒免職処分は自衛隊の内部から自衛隊を批判した同原告の思想を忌嫌い、同原告を自衛隊から排除する目的でなされた旨主張するが、本件懲戒免職処分は、前述した事由によってなされたのであって、同原告の思想を処分事由とはしていないことは明らかであるから、同原告の右主張は理由がない。
(二) 原告小西の主張に対する判断
(1) 本件特別警備練成訓練参加拒否の正当性の有無
原告小西は、本件特別警備練成訓練は、木銃等を持って多衆を排除するための訓練であり、デモ隊鎮圧を目的とした治安訓練であるので、右訓練参加拒否行為は憲法遵守義務を負っている者として当然のことであって正当な行為であった旨主張する。
しかし、本件特別警備練成訓練は、前述したとおり、そもそも、治安訓練にあたらないのであるから、原告小西の主張はその前提を欠き、採用できない。
(2) 憲法二一条違反の有無
原告小西は、自衛隊は武力を所持し、場合によってはそれを行使する実力集団であって、言論表現の自由が自衛隊の中で保障されていることが、危険な武装集団を市民の価値から遊離し暴走する危険を防ぐための唯一最善の担保となるのであるから、自衛隊員に対しては、言論表現の自由は一般市民に対してよりも厚く保障されなければならないところ、本件チラシ貼付行為に対する本件懲戒免職処分は、原告小西がその重要な権利を行使して、まさに必要な自衛隊批判を行ったためになされたのであるから、憲法二一条に違反し無効である旨主張する。
もとより憲法二一条の保障する表現の自由は、民主主義社会における重要な基本的人権の一つとして、自衛隊員に対しても、一般の国民同様に、尊重されなければならないが、自衛隊員であることによって、一般の国民には認められない特権が特別に保障されるということはそもそもありえず、自衛隊員は一般の国民に対する保障以上に厚く保護されなければならない旨の原告小西の主張は採用できない。
(3) 憲法三一条違反の有無
原告小西は、本件チラシ貼付行為に関する部分についての懲戒処分説明書(<証拠略>)には前記のとおりの記載がなされ、適条として自衛隊法四六条三号が掲げられているのみで、同号にいう「その他この法律又はこの法律に基く命令」に関して、具体的な法令の摘示がなされていないのに、被告航空自衛隊中部航空方面隊司令官は、その後の訴訟手続等において、都合の良いように右法令を差替えており、これは不利益処分を受けた原告小西の防御権を著しく侵害するものであって憲法三一条の適正手続の保障に違反すると主張する。
しかしながら、憲法三一条が、行政手続が手続的にも適正でなければならないことを要求しているとしても、懲戒処分に処する場合に、被処分者に対して常にその違反する法令等を細部にわたって告知しなければならないことまでをも要求していると解することはできないから、この点に関する原告小西の主張は採用できない。
ところで、自衛隊法施行規則三八条二項は、処分権者に対し、処分の事由を記載した処分通知書の交付義務を規定している。一般に、法令が行政処分に理由を付記すべきものとしている場合に、どの程度の記載をすべきかは、処分の性質と理由付記を命じた各法令の趣旨・目的に照らしてこれを決定すべきところ、右自衛隊施行規則の趣旨は、当該懲戒処分における処分事実を特定して、いかなる事実が懲戒処分の対象とされたのかを、隊員に対し明らかにして、不服申立て等の便宜を与えるとともに、処分権者に処分説明書の交付を義務づけることによって、処分を公正・慎重になさしめようとする趣旨にでたものであると解される。したがって、右趣旨に照らすと、右規則にいう処分の事由は、処分事実を特定することができるのであれば足りるのであって、必ずしも、それがどの懲戒事由に該当するのか等までをも明らかにする必要はないものと解される。
本件にあっては、前記のとおりの記載がなされているところ、この記載は具体的で処分事実を特定することができるのであるから、処分理由が明示されていない旨の原告小西の主張は理由がない。
なお、原告小西は、被告航空自衛隊中部航空方面隊司令官が、本件訴訟手続において、本件チラシ貼付行為が違反する法令につきこれを差替えている点に対し、これは不利益処分を受けた原告小西の防御権を著しく侵害するものであると主張しているが、同被告は、原告小西の本件チラシ貼付行為について、本件訴訟の当初から自衛隊法六四条三項の禁止する「怠業的行為」の「せん動」に該当し、懲戒事由を定めている同法四六条三号に該当する旨主張しているのであるから、法令の差し替えにより防御権が侵害された旨の原告小西の主張は採用できない。
また、原告小西は、「怠業」か「政府の活動能率を低下させる怠業的行為」かのいずれかには該当するとして本件懲戒免職処分を行ったことは、あまりにも恣意的な処分の仕方であり、被処分者の利益を著しく侵害するから憲法三一条に違反する旨主張するが、被告航空自衛隊中部航空方面隊司令官の右主張によって、原告小西の防禦につき、格別の不利益を与えたとも認められず、原告小西の右主張もまた採用できない。
二 原告小多に対する本件懲戒免職処分の適否
1 本件懲戒免職処分事由の存否
(一) 本件懲戒免職処分に至る経緯
次の事実は概ね争いがない(<証拠略>)。
(1) 当時の社会情勢
昭和四四年一一月二一日、当時の佐藤首相とニクソン大統領との会談により、二年後の昭和四七年五月一五日に我が国に沖縄を返還する合意が成立した。この当時、同年二月一九日には、連合赤軍五名が河合楽器の保養所「浅間山荘」に逃げ込んで籠城し、攻防の結果、機動隊員二名、民間人一名が死亡した、いわゆる「浅間山荘事件」のほか、同年三月には連合赤軍による集団リンチにより一四名が殺害された事件、海外では同年五月三〇日、イスラエルのテルアビブ空港においてアラブゲリラに加わっていた日本人三名が、テルアビブ郊外のロッド国際空港で自動小銃を無差別に乱射する等した結果、プエルトリコの巡礼者等二六名、ゲリラ二名が死亡した事件等、過激派集団による殺伐たる事件が頻発していた。
(2) 自衛隊の立川移駐、沖縄配備の決定経緯
自衛隊の立川移駐、沖縄配備は次の経緯を経て政府によって決定され実行された。
<1> 立川移駐
昭和四六年六月二五日に日米合同委員会において、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約六条に基づいてアメリカ合衆国が使用を許されていた施設である立川飛行場を日米両国で共同使用する旨の合意が成立し、同月二九日、閣議において、陸上自衛隊東部方面飛行隊等が同飛行場をアメリカ合衆国軍隊と共同使用することが決定された。
翌昭和四七年一月二一日、江崎防衛庁長官は、閣議において、立川飛行場へ年度内に部隊を移駐すること、その日時等は長官に任せて欲しい旨報告し、閣議の了承を得た。
そして、同年三月七日から八日にかけて、訓練部隊の立川飛行場への移動が完了した。
<2> 沖縄配備
沖縄の施政権返還に先立って、昭和四六年六月二九日、防衛庁久保防衛局長とカーチス在日米国大使館沖縄交渉団首席軍事代表との間で、「日本国による沖縄局地防衛債務の引受けに関する取極」(いわゆる久保・カーチス取極)が結ばれ、その中で、我が国が引き受ける防衛債務の内容、引受け時期及び自衛隊の部隊を配置する施設等が明らかにされた。
自衛隊の沖縄配備計画は、右取極所定の基本方針に沿って検討された結果、昭和四七年四月一七日の国防会議において、同年五月一五日の沖縄復帰に当たり準備要員として自衛隊員約一〇〇名を予め派遣し、復帰日以後、施設の引継ぎ及び維持管理等に当たらせること、同年一二月末日を目途とし、若干名の陸上自衛隊員、海上自衛隊員及び航空自衛隊員を逐次配備すること等を内容とする配備計画が決定され、この計画は、同年四月一八日の閣議において了承された。
(二) 本件懲戒免職処分事由の存否
(1) 本件無断勤務離脱行為
次の事実は争いがない。
原告小多は、昭和四七年四月一九日、結婚相談のための帰省を理由に同月二三日午前八時から同月三〇日午後一〇時までの間の年次有給休暇を承認されていたところ、所定の帰隊時限である同月三〇日午後一〇時をこえて、同年五月三日の満了に至るまでの間、帰隊せず、所属長の承認を受けることなく職務を離れた。
(2) 本件防衛庁長官に対する面会要求等の行為
<1> 本件防衛庁長官に対する面会要求等の行為の目的ないし動機
証拠(<証拠略>)によると、次の事実を認めることができる。
原告小多は、自衛隊員として訓練を受けている過程で自衛隊においては非人間的な教育、訓練についての疑問が次第に大きくなるようになり、隊員に対する非人間的な取り扱いに怒りを感じるようになった。
また、自衛隊の沖縄配置についても徐々に関心が高まるようになってきた。
<2> 本件防衛庁長官に対する面会要求等の行為
次の事実は争いがない。
原告小多は防衛庁長官に対し、同年四月二七日午後四時ころ、陸上自衛隊第四五普通科連隊一等陸士福井茂之、陸上自衛隊第三二普通科連隊一等陸士与那嶺均、陸上自衛隊第二特科群一等陸士河鰭定男、陸上自衛隊富士学校偵察教導隊一等陸士内藤克久及び原告小西とともに、自衛隊の沖縄配備中止等の要求をするため、原告小西以外は自衛隊の制服を着用の上、多数の報道関係者等を従えて、東京都港区赤板九丁目七番四五号所在の防衛庁正門に赴き、守衛に長官との面会を求め、守衛と押し問答のすえ、面会が実現不可能となったことから、正門外側で庁舎に向かって右六名が一列横隊に並び、右報道関係者がいたり不特定多数の者が往来している状況の中で、右福井茂之が全員を代表して、自衛隊の沖縄配備中止等を訴える内容を有し全員の記名のある別紙二の「要求書」(<証拠略>)を読み上げたのち、この「要求書」及びこれとほぼ同趣旨の別紙三の「声明」(<証拠略>)と題する文書を守衛に手交して立ち去った。
(3) 本件芝公園における集会参加等の行為
次の事実は争いがない。
原告小多は、同月二八日午後八時ころ、東京都港区所在の芝公園で開催された全国各県反戦青年委員会代表者会議・関東叛軍行動委員会代表者会議・入管体制粉砕東京実行委員会共催の「四・二八沖縄返還協定粉砕・自衛隊沖縄派兵阻止・日帝の釣魚台略奪阻止・入管二法粉砕中央総決起集会」に右<2>に掲記の原告小西ら五名とともに参加し、同集会場に設置された演壇上に原告小西を除いた五名が制服を着用して立ち、同会場の多数の参集者を対象として、全員を代表して前記内藤克久が別紙二の「要求書」を、同河鰭定男が別紙三の「声明」をそれぞれ読み上げ、その後、こもごも、自衛隊の沖縄配備等政府が決定した政策に反対し又はこれを阻止することを訴え、あるいは自衛隊を誹謗する等の内容を有する演説を行い、その際、原告小多は、「ナイキミサイルの訓練に仮想敵機として民間機の要撃訓練を何回も行っている。」、「自衛隊の教育訓練は、隊員を、命令あるいは指示に対し、反射的に何らためらうことなく人殺しを行うロボットに作りかえるものである。」、「単に命令に忠実なロボットであるがゆえに、全日空機を撃墜し、大量人民虐殺があった。」、「われわれ自衛官こそが、労働者、学生、人民と連帯して戦い、治安訓練に反対し、沖縄派兵阻止の先頭となって戦わなければならない。」等とそれぞれ述べた。
2 自衛隊法上の懲戒規定該当性の有無
(一) 本件無断勤務離脱行為
原告小多は、前述のとおり、所属長の承認を得ることなく帰隊時刻である昭和四七年四月三〇日午後一〇時を超えて同年五月三日に至るまで帰隊しないで理由のない欠勤をしたのであるから、自衛隊法五五条、同法施行規則五一条の営内居住義務及び同法五六条の職務遂行の義務に違反したことは明らかであるから、同法四六条一号の「職務上の義務に違反し、又は職務を怠った場合」の懲戒事由に該当する。
原告小多は、本件当時、自衛隊の方針に反する考え方を主張したり、あるいは隊員の人権擁護を主張したりする隊員に対しては、隊内において、一種のリンチが加えられる状況が自衛隊内には存在しており、原告小多がもしそのまま帰隊したならば、激しいリンチにさらされたであろうことは十分に予測されたところであるから、三日間帰隊しなかったという外形のみを取り上げて、営内居住義務違反及び職務遂行義務違反として、自衛隊法四六条一号に該当すると判断したのは、自衛隊法の解釈適用を誤ったものである旨主張する。
しかしながら、本件においては、原告小多が帰隊した際、激しいリンチにさらされるようなおそれのある状況にあったと認めるに足りる証拠はないし、仮に原告小多のいうような事情が存したとしても、部隊に対し何の連絡もしないまま帰隊しなかったことが許されることにはならないから、原告小多の右主張は採用しない。
(二) 本件防衛庁長官に対する面会要求等の行為及び本件芝公園における集会参加等の行為
そもそも自衛隊は、正当な手続過程を経て決定された国の政策を忠実に遂行しなければならない義務を負っている(自衛隊法三条)のであり、自衛隊員は、服務の本旨(同法五二条)にのっとり法令に従い、誠実にその職務を遂行する義務(同法五六条)、上官の命令に服従する義務(同法五七条)及び品位を重んじ、信用・威信を保持する義務(同法五八条)を負っているのである。
ところが、原告小多らの本件防衛庁長官に対する面会要求等の行為及び本件芝公園における集会参加等の行為は、自己の信念を実現させるために、自衛官の服装や官職を利用して宣伝効果を意図したものであって、原告小多らが不特定多数の者に対して読み上げた要求書及び声明の内容並びにその演説における原告小多らの主張は、議会制民主主義の政治過程を経て決定された国の政策につき、一方的かつ過激な表現をもって公然と批判するとともに、右政策決定を前提とする上司の命令に服しようとしない態度を明らかにし、あるいは、自衛隊を誹謗中傷するものである。
自衛官が、その制服や官職を利用し、それによる宣伝効果を狙って、国の政策を公然と批判し、これに従わない態度を明らかにするようなことは、本来政治的中立を保ちつつ一体となって国民全体に奉仕すべき責務を負う自衛隊の内部に深刻な政治的対立を醸成し、そのため職務の能率的で安定した運営が阻害され、ひいては議会制民主主義の政治過程を経て決定された国の政策遂行にも重大な支障を来すおそれがあるものというべきである。しかも、前記のような表現をもって隊員が自衛隊を公然と誹謗中傷することは、隊員相互の信頼関係を破壊し、自衛隊の規律を乱すものであり、隊員としての信用を傷つけ、又は自衛官の威信を損するものにあたる。
したがって、原告小多の本件防衛庁長官に対する面会要求等の行為及び本件芝公園における集会参加等の行為は、自衛隊法四六条二号の「隊員たるにふさわしくない行為」にあたり、この懲戒規定である同法四六条二号の「隊員たるにふさわしくない行為のあった場合」に該当する。
3 本件懲戒免職処分の適法性
(1) 本件懲戒免職処分の適法性の有無
原告小多の本件防衛庁長官に対する面会要求等の行為及び本件芝公園における集会参加等の行為は、自衛隊員としての官職と氏名とを表示し、あるいは、自衛隊員の制服を着用したうえで、国家政策としての自衛隊の沖縄配置及び立川移駐を公然と非難してその政策の転換ないし中止を求めたものであって、このようなことは厳正な規律と強固な団結の下に、我が国の平和と独立とを守り、もって国民の負託に応えなければならない自衛官に対する国民の信頼を損なうばかりか、自衛隊の信用を著しく失墜させることは明らかであるから、到底無視することのできない非違行為であるといわなければならない。
また、本件無断勤務離脱行為も、営内居住義務及び職務遂行義務にあえて違反して理由のない欠勤をなしたものであって、自衛隊員として著しい任務違背であることはいうまでもない。
以上の諸点を考慮すると、原告小多に対する本件懲戒免職処分は、社会通念上著しく妥当を欠き裁量権を濫用してなしたなどとは到底いえず、相当な処分であるということができる。
(2) 原告小多の主張に対する判断
<1> 請願権の行使の該当性
原告小多は、本件防衛庁長官に対する面会要求等の行為及び本件芝公園における集会参加等の行為は、沖縄派兵の中止等を求める請願権の行使であった旨主張する。
しかしながら、原告小多らの右の各行為は単なる対外的な宣伝活動にほかならなかったことは前述したところから明らかであるから、原告小多の右主張は採用できない。
<2> 憲法一四条違反の有無
原告小多は、自衛隊法四六条二号の定める「隊員たるにふさわしくない行為」は国家公務員法八二条三号の「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない行為」、地方公務員法二九条一項三号の「全体の奉仕者たるにふさわしくない行為」よりも合理的な理由なくその処分対象の範囲を拡大しているから、憲法一四条に違反しており、本件無断勤務離脱行為はわずか三日間に過ぎなかったのにこれに対し本件懲戒免職処分を課したのは憲法一四条に違反する旨主張する。
まず、自衛隊法四六条二号が国家公務員法八二条三号、地方公務員法二九条一項三号よりも処分対象の範囲を拡大しているとの点は原告小多の独自の見解であって採用できない。
次に、わずか三日間の無断職場離脱行為に対し本件懲戒免職処分を課したのは憲法一四条に違反するとの点は、この行為のみが同処分の対象となっていたわけではなく、この行為の外に、面会要求等及び集会参加等の行為が同処分の対象となっているのであるから、この点に関する原告小多の主張はその前提において誤っており採用できない。
<3> 憲法二一条違反の有無
原告小多は、本件芝公園における集会参加等の行為は憲法二一条によって保護されるべきものであり、これをとらえて懲戒処分としたのは憲法二一条に違反する旨主張する。
しかしながら、憲法二一条の保障する表現の自由は、民主主義社会における重要な基本的人権の一つとして特に尊重されなければならないものであり、これをみだりに制限することは許されないが、表現の自由といえども国民全体の共同の利益を擁護するため必要かつ合理的な制限を受けることは、憲法の許容するところであるというべきである。そして、行政の中立かつ適正な運営が確保され、これに対する国民の信頼が維持されることは、憲法の要請にかなうものであり、国民全体の共同の利益にほかならないものというべきところ、自衛隊の任務(自衛隊法三条)及び組織の特性にかんがみると、隊員相互の信頼関係を保持し、厳正なる規律の維持を図ることは、自衛隊の任務を適正に遂行するために必要不可欠であり、それによって、国民全体の共同の利益が確保されることになるというべきである。
したがって、このような国民全体の利益を守るために、隊員の表現の自由に対して必要かつ合理的な制限を加えることは、憲法二一条の許容するところであるということができる。
原告小多らの本件防衛庁長官に対する面会要求等の行為及び本件芝公園における集会参加等の行為は、右のような国民全体の利益を損なうことは前述したとおりであるから、このような弊害を防止するためにこれを懲戒処分の対象としたことをもって憲法二一条に違反したこととはならないから、原告小多の右主張も採用しない。
<4> 憲法一九条違反の有無
原告小多は、本件懲戒免職処分は、同原告の思想自体を問題とし、これを忌み嫌い、同原告を自衛隊から排除するためになされた処分であるから憲法一九条に違反する旨主張する。
しかし、本件懲戒免職処分は、原告小多の自衛官として遵守しなければならない義務に違反して自衛隊の配備に関する政府の適法な決定に反対し又は自衛隊を誹謗中傷するなどしたことが「隊員としてふさわしくない行為のあった場合」にあたるとしてなされたもので、原告小多の思想自体に対してなされたものではないから、原告小多の右主張は採用しない。
<5> 懲戒手続の憲法三一条違反の有無
原告小多は、本件懲戒免職処分は、原告小多に一切の弁明の機会を与えずに処分を行い、あるいは、本件懲戒処分という結論を早急に出すために、原告小多の弁明する権利が侵害されることを知っていながら、ことさらに手続を急いで本件懲戒免職処分という結論を出したのであるから、憲法三一条に違反する旨主張する。
本件懲戒免職処分が原告小多の弁明なくしてなされたことは争いがないところ、憲法三一条が行政手続における手続的適正をも要求していると解することができるとしても、懲戒権者が懲戒処分をする場合に被処分者に対し常に告知、聴聞の機会を与えなければならないと解することはできず、被処分者の所在が不明であるような場合には、右告知、聴聞の機会を与えることなくして懲戒処分をなすことも許されると解すべきであり、本件にあっては、原告小多の所在が不明であったことは後述するとおりであるから、本件懲戒免職処分が原告小多に弁明の機会を与えることなくしてなされたことをもって憲法三一条に違反したということはできない。
また、懲戒権者が非違行為をなした隊員に対し何時、いかなる処分をなすかはそもそも懲戒権者の合理的な裁量権の範囲内に属するところであり、本件にあっては、原告小多の所在が不明で、非違行為も明白であったことは後述するとおりであり、非違行為も重大であったことは前述したとおりであるから、このような事情のもとでなされた本件懲戒免職処分は右裁量権の範囲内にあったということができ、原告小多の主張するような事情によってなされたことを認めるに足りる証拠はない。
したがって、この点に関する原告小多の右主張は採用しない。
<6> 自衛隊法施行規則八五条二項違反の有無
原告小多は、本件懲戒免職処分には自衛隊法施行規則八五条二項の要件を具備することなくなされた違法が存する旨主張する。
証拠(<証拠略>)によると、次の事実を認めることができる。
原告小多に対する懲戒権者であった第二高射群司令牧正(以下「牧司令」という。)にとっては、原告小多の本件無断勤務離脱行為のあったことはその当時において明白な事実として認識しており、また、本件防衛庁長官に対する面会要求等の行為及び本件芝公園における集会参加等の行為についても、いずれも現場写真入りで新聞報道等がされたことなどから、その当時において明白な事実として認識していた。
ところで、牧司令は、昭和四七年四月二七日午後四時二〇分ごろ、航空幕僚監部人事教育部人事課から同日の原告小多らの防衛庁正門における行為に関連して、原告小多の所在の問合せ及び原告小多の顔写真送付の依頼を受け、第五高射隊にその旨指示した。この指示を受けた第五高射隊長三等空佐田中芳郎(以下「田中隊長」という。)は、直ちに原告小多が前記のとおり休暇中であることの報告及び顔写真の送付をするとともに、所在を確認するために原告小多宛に帰隊を促す電報を休暇中の連絡先である「滋賀県高島郡マキノ町大字下一二六の二」に発信した。この後、航空幕僚監部人事教育部長から「本人確認のため顔見知りの者を至急上京させよ」との指示があり、牧司令は、田中隊長、第五高射隊射統小隊長二等空尉宮本正志、同小隊先任空曹一等空曹瀬戸口貞夫及び同小隊内務班長三等空曹土井基昭の四名を同夜出発させた。
田中隊長以下四名は、翌二八日早朝、東京都港区赤板所在の航空幕僚監部人事教育部に出頭し、前日の防衛庁正面付近における現場写真により、本件防衛庁長官に対する面会要求等の行為をなした隊員の中に原告小多がいることを確認し、また、同日朝の新聞報道により原告小多が本件芝公園における集会に参加する予定であることを知り、原告小多を説諭して帰隊させるため同公園に出向いたが、原告小多と接触するには至らなかった。
原告小多は、その後も、牧司令に対し何らの連絡もせず、その所在をも明らかにしなかった。
このようなことから、牧司令は、同日、自衛隊法施行規則七三条に基づき、原告小多に対する同日付け被疑事実通知書を同群防衛班一等空尉古賀雅俊に命じて前記連絡先住所に使送させた。古賀一尉は、原告小多に右通知書を手交すべく家族に原告小多の所在を尋ねたが、家族もその行方について案じている状況であり、その所在は不明であった。このため、古賀一尉は、懲戒手続に関する訓令(昭和二九年八月二八日防衛庁訓令第一一号)九条所定の「被疑事実通知書は、被審理者が勤務の場所を離れ居所が明らかでない場合には、当該被審理者の家族に送達するものとする。」との規定に従い、右通知書を小多の実父小多傳九郎に手交して帰隊した。
牧司令は、原告小多の所在については確認し得ず、所在不明であったため、自衛隊法施行規則八五条二項の「当該隊員の所在が不明のとき」に該当すると判断し、同七一条以下の手続によらずに、懲戒手続を進め、同月四日付けで、原告小多に対して懲戒免職処分を行うことを決定し、同日、原告小多の両親宅に懲戒処分宣告書が送達された。
右認定事実によると、原告小多の本件非違行為は懲戒権者に明白となっていたのであり、しかも、原告小多は、その所在を不明にしたまま帰隊しなかったのであるから、本件懲戒免職処分に自衛隊法施行規則八五条二項に違背するところがあったということはできない。
これに対して原告小多は、牧司令は角南弁護士が原告小多の代理人であることを認識しながら同弁護士を通じて原告小多の所在を確認しようとせず、同弁護士に連絡を取れば原告小多の所在は容易に確認できたのであるから、原告小多は「所在不明」であったとはいえない旨主張する。
しかしながら、牧司令が角南弁護士が原告小多の代理人であることを認識していたことを認めるに足りる証拠はないし、角南弁護士は、本件防衛庁長官に対する面会要求等の行為の当日原告小多らに同行して同庁正門付近に赴いてはいるものの、原告小多らに対応した同庁警備職員らは同弁護士が原告小多の代理人である旨を告げられたこともないし、委任状の交付を受けたこともない(<証拠略>)のであるから、仮に同弁護士が原告小多の代理人であったとしても、牧司令が同弁護士を原告小多の代理人と認識しなかったことは止むを得ないところであったといわなければならない。
したがって、原告小多のこの点に関する主張も採用しない。
(裁判官 林豊 合田智子 三浦隆志)
別紙一
アンチ安保 四四・一〇・一五 第三号
アンチ安保を書き アンチ安保を読み
アンチ安保で考え 安保粉砕を叫ぼう。
我々の敵は誰か
我々の友は誰か
何故我々は治安訓練を拒否する必要があるのか。いや何故我々は拒否せねばならないのか。
何故彼等はデモるのか。何故デモらなければならないのか。
資本主義経済は初期自由競争形態から国家独占形態へ移行するにつれ、その内部にはいろいろ矛盾―恐慌、公害、交通事故、住宅難、人間疎外による犯罪の増加、果ては帝国主義戦争へ結着せざる得なくなってきた。そこにおいて我々人民は搾取され、抑圧され、まさに人間以下の生活を強いられている。学問も科学も繁栄も我々下層・貧困階級、プロレタリア階級には何をも与えない。
何故彼らはデモるのか?何故デモらなければならないのか?
彼らはこの搾取され抑圧され、人間以下の生活を強いられている下層・貧困階級プロレタリアート階級が人間としての生活を人間としての生きる権利を勝ちとるために戦っているのだ。
何故我々自衛官が彼等を鎮圧するのだ。我々は自衛隊入隊以前は、いや今でも下層・貧困階級、勤労人民階級として搾取され、抑圧されているではないか。
我々の生活を、人間としての生きる権利を勝ちとるために戦っている彼らを何故抑圧する必要があるのだ。我々下層・貧困階級、勤労人民階級の生活を向上させ、人間としての権利を勝ちとるために生まれたマルクス主義を、共産主義を何故拒否するのだ。
君はブルジョアジーか、支配階級か。
万国の下層貧困プロレタリア階級よ団結せよ。友よ同士よ立て、そして戦え。
打倒資本主義のために
愛する父母、兄弟、恋人のために
友よデモ隊は我々の敵ではない。
我々の敵はブルジョア政府・帝国主義社会体制だ。
人民の軍隊 赤軍へ結集せよ!
国家って何だ。政府って何だ。自衛隊って何だ?彼らは「命令は絶対だ」と言う。命令って何だ。命令なら人を殺してもいいのか。命令なら何をしてもいいのか。
いったい我々は何だ。犬か、ロボットか機械か?
極東軍事裁判においては上官の命令により捕虜を殺した軍人は処刑された。
すなわち何よりも必要なのは良心なのである。何よりも重要なのは「自分は個人はどうするのか」ということなのである。
自衛隊において、我々は果たして人間としての権利を与えられているのだろうか。自衛隊が軍隊が非民主的な非人間的なものであった時どうなるのか、その結果は第二次世界大戦が示し、今又、帝国主義政府が示しつつ、そして歴史は証明しているのである。
戦争が開始された時、戦場で死に傷つくのは誰だ。ブルジョアジーか。そんなことはあるまい。ブルジョアジーはあらゆる手段をつかって生き延びる。死に傷つくのは俺達なのだ。
下層、貧困プロレタリア階級なのだ。自衛隊を警察を見てみよ。ブルジョアジーがいるか。たとえいたとしても彼らは安全な所、命令を下す階級・支配階級としているにすぎないのだ。徴兵であってもそれは何ら変わらない。戦争で死に傷つくのは俺達なのだ。誰がブルジョア政府の指図で動くものか。
俺達が死ぬことを俺達がきめて何故いけないのだ。
勝ちとれ自衛隊に自由を民主主義を!
一〇月一〇日、遂に我々待望の全自衛隊革命的共産主義者同盟―赤軍―が結成された。この赤軍は革命の政治的任務を遂行するための武装集団である。すなわち、赤軍は帝国主義日本政府の戦争政策を未然に防止するだけでなく、大衆に宣伝し、大衆を組織し、大衆を武装し、大衆を助けて革命政権を樹立することを任務とし、広範な人民大衆の利益のために全世界人民の利益のために戦うことを目的としている。
別紙二
要求書
われわれは、戦争に反対する人間としての良心と人格をかけて、勇気をもって、この要求書を防衛庁長官に提出するものである。
わが自衛隊は、従来から四次防、沖縄派兵あるいは立川強行移駐などの問題について、国民各層の鋭い糾弾をうけてきた。特に、戦後二〇数年間の長きにわたって軍事監獄の中に閉じ込められ、屈従と圧迫を強いられてきた沖縄一〇〇万の労働者、農民は、老若男女を問わず一人一人が自衛隊の沖縄派兵に怒りのこぶしをふりあげている。
われわれは、こうした事実を直視し、かつまた沖縄出身隊員砂辺二士の自殺などに衝撃をうけ、一体、われわれが、いかなる態度をとるべきか、真剣に考えこまざるを得なかった。
しかるに、先般来、わが自衛隊がとった行動は何であるのか、秘密裡に物資を沖縄に搬入するなど、あらゆる形をとって、沖縄民衆への圧迫を強いているのではないのか。
われわれは沖縄派兵、釣魚台(「尖閣諸島」)略奪のせん兵となることを自らの良心にかけて拒否する。
見よ。自衛隊の侵略軍隊への強化は、われわれにあらゆる屈従を強制しようとしているではないか。
入隊以来、われわれは、あらゆる隊内の非民主的教育、生活、訓練に耐えてきた。だがこのような事態の中で、われわれは、もはや黙っていることはできない。われわれは、われわれの労働者、市民としての権利を断乎として要求する。そして、なによりも沖縄派兵を直ちに中止することを要求する。
要求項目
一 われわれは、侵略のせん兵とならない。沖縄派兵を即時中止せよ。
二 われわれは、労働者、農民に銃を向けない。
立川基地への治安配備を直ちにやめよ。
三 われわれに、生活、訓練、勤務の条件の決定に参加する権利、団結の権利を認めよ。
四 われわれに、集会・出版の自由など、あらゆる表現の自由を認めよ。
五 われわれは不当な命令には従わない。命令拒否権を確定せよ。
六 幹部、曹、士の一切の差別をなくせ。
七 勤務時間外のあらゆる拘束を廃止せよ。
八 私物点検、上官による貯金の管理などの一切の人権侵害をやめよ。
九 小西三等空曹の懲戒、免職をとり消し、直ちに原隊に復帰させよ。
一〇 われわれは、自衛官であると同時に労働者、市民である。労働者、市民としてのすべての権利を要求する。
一九七二年四月二七日
陸上自衛隊第三二普通科連隊第一中隊(市ヶ谷駐とん地) 一等陸士 与那嶺均
陸上自衛隊第四五普通科連隊第一中隊(京都大久保駐とん地) 一等陸士 福井茂之
陸上自衛隊富士学校偵察教導隊(富士駐とん地) 一等陸士 内藤克久
陸上自衛隊第二特科群第二〇特科大隊本部中隊(仙台駐とん地) 一等陸士 河鰭定男
航空自衛隊第二高射群第五高射隊射銃小隊(芦屋基地) 一等空士 小多基実夫
航空自衛隊第四六警戒群通信電子隊(佐渡基地) 三等空曹 小西誠
(行政不服申し立て係争中)
防衛庁長官
江崎真澄 殿
別紙三
声明
一九七二年四月二七日、いままさに日本帝国主義が、再びアジア人民への圧迫と殺りくに乗り出さんとしているとき、われら自衛隊兵士は、闘う労働者、農民、学生と堅く連帯し、闘いに合流したことをここに明らかにする。
われら自衛隊兵士は、すべての労働者人民がそうであるように、歴史始まって以来、兵営監獄の中で抑圧され、差別され、あらゆる屈従を強いられてきた。
だが、われらは、もはやこの帝国主義支配者どもの横暴と圧政に、絶対に耐えることはできない。われらは、自らの労働者人民の立場にたち、労働者人民とともに、われらの人間としての解放という偉大な事業に向かって強く前進すべきときがきたことを、今こそはっきりと確信する。
沖縄で、南朝鮮、ベトナムで、いや全世界で人民の怒りの炎は燃えあがっている。ひとり軍隊のみが例外ではありえない。アメリカの兵士たちの闘いをみよ。南朝鮮の兵士たちの闘いをみよ。いまやフランス、西ドイツでも「軍服を着た人民」たちは、労働者人民とともに闘いうることを明らかにしているではないか。
帝国主義佐藤政府は、われらを侵略と人民弾圧のせん兵とせんがために、四次防と沖縄派兵を必死になって強行しようとしている。「沖縄防衛は、沖縄県民の手で」―これらがかれらのスローガンである。
だが考えてみよ。「沖縄防衛」「皇土防衛」の名のもとに、二〇万の生命が奪われた沖縄一〇〇万の民衆が誰れ一人としてこれを信ずるか。だからこそ帝国主義支配者どもは釣魚台略奪をはじめとして、民衆の排外心をあおり、差別と分断を強めてくるのである。
「沖縄へ一兵たりとも上陸さすな」―沖縄一〇〇万の民衆はこのスローガンを高々とかかげ、自衛隊派兵阻止を闘い抜いている。
今こそ、われらは、すべての労・農・学・兵の堅い団結のもとでこのスローガンに応えるべきときである。
全国数千万の労働者諸君、農民諸君、学生諸君!
われらは、ここに自らの良心と全人格をかけて誓う。
沖縄派兵を拒否することを。侵略のせん兵となることを拒否することを。労働者人民に銃を向ける治安出動を拒否することを。
一九七二年四月二七日
陸上自衛隊第三二普通科連隊第一中隊(市谷駐屯地) 一等陸士 与那嶺均
陸上自衛隊第四五普通科連隊第一中隊(京都大久保駐とん地) 一等陸士 福井茂之
陸上自衛隊富士学校偵察教導隊(富士駐とん地) 一等陸士 内藤克久
陸上自衛隊第二特科群第二〇特科大隊本部中隊(仙台駐とん地) 一等陸士 河鰭定男
航空自衛隊第二高射群第五高射隊射銃小隊(芦屋基地) 一等空士 小多基実夫
航空自衛隊第四六警戒群通信電子隊(佐渡基地) 三等空曹 小西誠
(行政不服申し立て係争中)